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『シグナル&ノイズ』(ネイト・シルバー)

米国大統領選期間中、もっとも注目されるサイトの一つである「FiveThirtyEight」を立ち上げたネイト・シルバーによる予想と統計に関する本。もっと言えば「情報」に関する本である。

目次は以下の通り。

  • 序章 情報が増えれば、問題も増える
  • 第1章 壊滅的な予測の失敗
  • 第2章 キツネとハリネズミ――予測が当たるのはどっち?
  • 第3章 マネーボールは何を語ったか?
  • 第4章 天気予報――予測がうまく機能している数少ない分野
  • 第5章 巨大地震のシグナルを探す
  • 第6章 経済予測はなぜ当たらないのか?
  • 第7章 インフルエンザと予測モデル
  • 第8章 間違いは減っていく――ギャンブルとベイズ統計
  • 第9章 機械との闘い
  • 第10章 ポーカー・バブル
  • 第11章 打ち負かすことができないなら――金融市場と予測可能性
  • 第12章 地球温暖化をめぐる「懐疑心」
  • 第13章 見えない敵――テロリズムの統計学
  • 結 論 予測の精度はもう少し高められる

2016年の大統領選では、事前の予想と実際の結果に乖離があったわけだが、それで「なんだ、こんな予想なんて意味がないじゃないか」と思った人ほど、本書を読まれた方がいいだろう。予想は予想であって、予知ではない。外れることがあるからこそ、それは予想なのだ。

私たちは、もっと確率と不確実性を受け入れるようにしなければならない。

本書は、「予測がどこまで素晴らしい力を持つのか」を力説していたりはしない。むしろ、その限界性をさまざまに示す。その上で、いかにその予測の精度を高められるのか、どのような姿勢がその向上をもたらすのかを説く。「完璧な予想」を期待するのは、本書の言葉を借りればハリネズミである。ネイト・シルバーは、むしろキツネ的アプローチ__ベイズ的アプローチ__を推奨する。

新しい情報に接したとき、どのように反応するか。状況の変化に腹をたてて、過剰に反応するか。あるいは予測が外れそうな事実に直面したとき、冷静に考えを変えることができるか。

事前に仮説を立て、状況とその確率を見積もる。そして、新しい出来事に遭遇するたびに、少しずつその仮説と確率をバージョンアップしていく。これは、プログラム開発におけるアジャイルな手法に少し似ているかもしれない。更新される帰納法なのだ。

このようなアプローチにおいては、神託を与えてくれる予言者は退場を余儀なくされる。だからこそ、その言葉を待ち受ける人々に不安が宿る。でも、まさにその不安こそが我々が本当に対峙しなければ(退治ではない)ならないものなのだ。

世界を、確率と不確実性を持って眺めれば、そこにある多様性と可能性を見て取ることができる。それはそのまま、自分の中にある「世界モデル」をバージョンアップさせることにもつながるのだ。

おそらくネイトも、今まさにそのバージョンアップを進めていることだろう。そこからどのような洞察が生まれてくるのか。非常に楽しみである。

シグナル&ノイズ 天才データアナリストの「予測学」
ネイト・シルバー [日経BP社 2013]

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