それほどたくさんとは言えないが、文書読本というか、本を書くためのノウハウ書はいくつか読んできた。その中でも、かなり実践的な(あるいは実際的な)内容が含まれている。小説でも論文でもない──著者がよく書いている──、実用書・解説書が主な対象と言えるだろう。案外、そうした対象を持つ文章読本は少ないので、貴重な一冊でもある。
では、著者が提示するノウハウとはどんなものか。それは、「自然石を使った壁作り」というメタファーに要約できる。本書の副題も、「自然石構築法」(The Fieldstone Method)である。
自然石とは何か。それはレンガのようにあらかじめ形や大きさを整えられた「材料」ではない。日常的に、その辺に転がっている、色も形もバラバラなものたちである。物書きたるものは、日常生活の中で、いかにたくさんその「自然石」を集めるかにかかっている。この話は、あらゆる発想法の原点(メモを取れ)に通じている。
そうなのだ。書く内容を、書くタイミングになって探しに行く、という「仕入れ」を物書きは行わない。書きたいこと、書けることは、日々の生活の中で見つけておくのである。
しかし、そうした石たちは、レンガのように綺麗に整っていないので、ただ上に積みあげって行ったら壁(≒アウトプット)が完成する、というわけにはいかない。うまくはまるよう、石を選んで組み立てていく必要がある。
だからこそ、石(≒メモ)をたくさん集めよという要請が生まれる。石の数が十分にあれば、はめられる石が見つかる可能性は高まる。
そしてまた、自然石の壁だからこそ、多少欠けてあっても、色が統一されていなくても、それが味わいとなる。もちろん、壁として機能する最低限の均一性は必要だろうが、その点を除けば、そこに個性が宿っていても構わない。
いやむしろ、話は逆だろう。自然石を積み上げていくからこそ、そこに個性を宿せるのだ。言い換えれば、自然石を積むその手つきが、書き手の個性なのである。
というわけで本書は、「最初にアウトラインを立てて、あとはその通りに書いていきましょう」という(いささか私には非現実的に思える)提言とはかなり距離のある本である。アウトラインを作るにせよ、それは後からいくらでも組み替えられるし、むしろ組み替えた方が良いと堂々と主張されている。非常に実践的だ。
そして、それ以上に大切なことが、冒頭に掲げられている箴言である。
「興味のないことについて、書こうと思うな」
おそらく、興味がないことなら、コツコツ石を積み上げて壁を作ることも続けられないだろう。そこはレンガの出番である。
ジェラルド・M・ワインバーグ 翻訳:伊豆原弓 [翔泳社 2007]