もし、自分の感情をもてあまし、そのことで人生がうまくいっていないと感じていたら。そしてもし、その感情を高値で買ってくれるWebサービスがあったとしたら。
はたして、あなたはどうするだろうか。
主人公宮川政司は自分の感情を買い取ってもらうことにした。自分ではどうしても抱えきれない思いがあったからだ。そのことは、彼の人生にどのような影響を与えただろうか。愛しすぎるがゆえに重くなり、別れて暮らすようになった妻との関係は、どう変わっただろうか。そして、その中で、彼は一体何を望むだろうか。
本作を読みながら、非常にどきどきしていた。考えうる限りで最悪のシナリオが私の頭の中に浮かんでいたからだ。もし物語がそのように決着したら、私はどこにも持っていきようがない気分を抱えていたことだろう。それこそ感情買取ドットコムで買ってもらいたいような気持ちである。
しかし、そんなことにはならなかった。物語は、あるべき形に結実した。私はそのことに本当に安心していた。良かったと強く思った。そう思わせるだけの世界がそこにはあった。あるいは、そういう人物が描かれていた。
作風や文体に奇抜なところはないが、その分しっかりとした描写が作品世界を支えている。端的に言えば、うまい。最近新刊を出されたようなので、そちらを読むのも楽しみである。
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