本書が提示するのは、極めてシンプルな話だ。おそらく以下の見出しに集約されているだろう。
まとめてイッキにやれば「何とかなる」は幻想
なぜか。第一に現代では、仕事が増えるスピードが凄まじい。代表的なのはメールで、数日でも放置していれば凄まじい数に膨れあがってしまう。第二に、そうして大量に溜めた仕事を片付けるときに、どうしても飽きてしまう。仮に飽きないにしても、第三にそうしてまとめてイッキに仕事をしていると他の仕事ができなくなる。その帳尻はどこかで合わせなくてはいけないわけだから、永遠に仕事に追われることになる。
だったらどうするか。少しずつこなすことを繰り返す。これだ。ようするに溜めない、ということだ。
あまりにも単純な話だが、そうすることによって人はその作業に「慣れていく」ことは注目に値する。著者の言葉を借りれば「ロボット」が育つわけだ。これはスポーツで言うところの反復練習に当たる。いっきにまとめてやると、この機会が損なわれるわけだから、処理速度の向上は望めない。もしその作業が、一回限定のものではなく、中長期的に行う必要があるものならば、この点は痛い。
というわけで、著者の話はいちいち合理的なのだが、人間の不合理性がそれを受け付けるかどうかはわからない。
以前、別のブログでこういう記事を書いた。
人間は小さい差異をあまり区別できない。作業時間の例で考えよう。たとえば、「一日2時間執筆しよう!」と考えていたとする。立派な心がけだ。しかし、心だけだけで人の行動は生まれるものではない。だいたいはぐずぐずと時間を使ってしまう。30分が経ち、1時間が経ちと、時間はどんどんと過ぎていく。そして、気がつくとタイマーは1時間50分を示している。人はこのとき、こう思うのだ。「もう、やってもやらなくても変わらないな」と。そうして、残り10分を、拾ったお金のように綺麗さっぱり使い切ってしまう。作業時間は0だ。
しかし、である。何をどう考えても、作業時間10分と作業時間0分は大きな違いがある。前者は一週間繰り返せば70分もの作業時間になるが、後者はどれだけ足しても0である。合理的に考えれば、間違いなくこの結論となる。
が、1時間50分のタイマーを見ているときの自分はそのようには感じない。10分の作業時間など「あってもなくても同じ」ように感じられてしまう。
だからこそ。そう、だからこそ、人は仕事を溜めてしまう。上に引いた記事を参照すれば、「1」として認識できるまで仕事を蓄積させてしまう。別の言い方をすれば、「1」レベルに溜まるまでそれは「仕事」として認識されない。
これはなかなか厄介な問題である。精神論ではないが、認識の問題なのだ。だからこそ、「作業の粒度をできるだけ小さくする」や「5分でできることは今すぐやってしまう」というアドバイスが登場する。もっと言えば、「これは何か?」と問うことの重要性もここにある。前者は人の認識に関わらず行動を促す効果が、後者は既存の認識を揺さぶる効果が期待できる。
著者は本書の冒頭で”仕事がたまってしまうのは、必ずしも「能力」の問題でもなく「時間不足」の問題でもなく、かなりの程度、「心の問題」である”と述べるが、まさにそのとおりだろう。そして、だからこそ、これは解決が難しかったりする。
▼目次データ:
第1章 「仕事の渋滞」の原因は「心」が9割
第2章 スッキリした気持ちで仕事を開始できる「トレイ」活用術
第3章 「心」を楽にできる仕事をためない計画の立て方
第4章 挫折せずにこつこつ毎日続けるコツ
第5章 それでもためてしまう人のための「心」の負担を減らす仕事術
第6章 ストレスフリーで働ける! 「365方式」書類整理術
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