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2017年上半期ブック14

さて、2017年の上半期もずばっと終了しましたので、ここで「おぉ、これは」という本をピックアップしたいと思います。本当は10冊に絞り込む予定だたのですが、旅行に出かける女性のカバンみたいにぎゅうぎゅう詰め感があったので、14冊に拡張してみました。

では、どうぞ。

ポピュリズムとは何か - 民主主義の敵か、改革の希望か (中公新書)
ポピュリズムとは何か – 民主主義の敵か、改革の希望か (中公新書)

やはり、近年を考える上で見逃せないのがポピュリズムの台頭でしょう。反知性主義と絡まることで、粗暴な力が跋扈しやすい状態が生まれつつように思います。ポピュリズムの成立と趨勢について知っておくことは大切でしょう。

アレント入門 (ちくま新書1229)
アレント入門 (ちくま新書1229)

でもって、人が他人を迫害することについて、あるいは人間らしく生きることについて考える上では、やはりアレントは避けて通れないと思います。本書で書かれていることが、見事にポピュリズムがもたらす風潮と合致していて、いやはや怖いぞ、という感覚が消えません。

なぜ保守化し、感情的な選択をしてしまうのか : 人間の心の芯に巣くう虫
なぜ保守化し、感情的な選択をしてしまうのか : 人間の心の芯に巣くう虫

さらに、保守的というかナショナリズムへの傾倒が生じてしまうのは、恐怖というものに根源があるのだぞ、という指摘を知っておくのも大切でしょう。倫理や道徳を表面的に説いても、その恐怖が消えない限りは、人は他者を攻撃し、排斥してしまう、ということは一だって起こりえるわけです。

心を操る寄生生物 : 感情から文化・社会まで
心を操る寄生生物 : 感情から文化・社会まで

付け加えて言うならば、私たちが他者を排泄するその根源的な理由は、もしかしたら微生物にあるのかもしれません。見慣れない人=自分の免疫系では対応できない細菌を持っている人→だから嫌っておく、という人類の黎明期の適者生存判断が、もしかしたら異人種への迫害の根っこにあるのかもしれません。これは恐怖管理理論とも適合します。これは根深い問題ですが、逆に言えば、次なる人類は克服しているのかもしれません。

質的社会調査の方法 -- 他者の合理性の理解社会学 (有斐閣ストゥディア)
質的社会調査の方法 — 他者の合理性の理解社会学 (有斐閣ストゥディア)

それはそれとして、次なる人類に希望を託す前に、今の人類にできることをやることも大切でしょう。で、ポピュリズムではない多様で複雑な価値観が共存する社会を目指すためには、やはり他者への理解は欠かせません、結局の所、単純化し、同一化することがポピュリズムを支えているわけですから。よって、本書が示す社会学の在り方は、ある種の抵抗力となるような気がします。

人はなぜ物語を求めるのか (ちくまプリマー新書)
人はなぜ物語を求めるのか (ちくまプリマー新書)

もう一点、合わせて考えたいのは「物語」からのアプローチです。人はそれぞれに物語を持ち、それに合わせて情報を解釈する。その物語によってはとても生きづらいことがったり、他人と関係をうまく結べないこともある。もちろん、そういう考え方も一つの物語(メタ物語)だと解釈した上で、人間との付き合い方を考えていくことも大事でしょう。

みみずくは黄昏に飛びたつ
みみずくは黄昏に飛びたつ

人が物語を持つならば、作家はその素材を提供したり、修復したり(バッチを当てたり)する存在です。作家は何を考え、どのように物語を紡ぐのか、というのも実に面白い話で、村上春樹さんの地下に降りる、というお話は、人間の、というか人類の共通的な要素に響かせるためのある種の「ハッキング」なのではないか、という風にも感じます。

ベストセラーコード 「売れる文章」を見きわめる驚異のアルゴリズム
ベストセラーコード 「売れる文章」を見きわめる驚異のアルゴリズム

しかしながら、そうした「物語」は、特にものすごく売れる物語は、ある種の共通項を持ち、それがコンピュータにより解析される現代でもあります。こちらは文学志向というよりも、エンタメ・消費志向ではありますが、人に受容される物語をいかに紡げば良いのか、という指針を得るには大切でしょう。しかし、それは一周回って、ポピュリズム的なものを醸成するのではないか、という疑問もまた同時に持つ必要があるでしょう。

ペナンブラ氏の24時間書店 (創元推理文庫)
ペナンブラ氏の24時間書店 (創元推理文庫)

でもって、コンピュータパワーだけで、なんでも解決できると思うなよ、と告げてくれるのがこの物語で、たしかにコンピュータとかグーグルってすごいけど、情報化された段階で(変換を通した段階で)変質しちゃうものってあるよね。そういうの見逃してない? と諭してくれるような本でもあります。アンチITテクノロジーというよりも、古い技術と新しい技術に等しく暖かい眼差しを向けている本、というところでしょうか。

スタートアップ・バブル 愚かな投資家と幼稚な起業家
スタートアップ・バブル 愚かな投資家と幼稚な起業家

上とは違った意味で、ITIT騒いでいるけど、それって中身あるの? と痛烈に批判するのがこの本です。というかIT技術ではなくIT技術を謳う企業の空疎さを暴露した本なのですが、まあ、一攫千金を狙って表面だけをコーティングしている企業というのは、なかなか酷いですね、という感想と共に、そうしたものを助長している人たちやシステムがあることもたしかであり、個々の企業だけの問題として考えるのでは足りません。どれだけ揶揄しようが、そこにお金の匂いがする限りは集まってくる人は必ずいるわけで、対処療法だけでは、限界があるでしょう。

ウェブに夢見るバカ ―ネットで頭がいっぱいの人のための96章―
ウェブに夢見るバカ ―ネットで頭がいっぱいの人のための96章―

もう少し視野を広く持ち、IT技術がもたらす社会と、そこに生きる人間との関係性について触れたのが本書。エッセイですが、なかなか辛辣な内容も多いです。もちろん、単なる機械嫌いのITヘイトなら聞く耳を持つ必要はありませんが、ITに精通している人間だからこそ持つある種の恐怖感には、「そうかもしれないな」と思わされるものがあります。やはり、技術なのですから、どう使うのかは大切ですね。

勉強の哲学 来たるべきバカのために
勉強の哲学 来たるべきバカのために

で、バカつながりでこの本なのですが、こちらのバカはもっと肯定的に使われています。勉強し始めると周囲から浮くけれども、さらに進めると、周りとうまく歩調を合わせられるようになる。こうるなると、一見バカっぽく振る舞っている人も、実体はそうではないのではないか、という疑念が付きまとうようになる。こうなると、安易に「バカにする」ことはできなくなり、そこにあるかもしれない価値に注意を向けるようになる。それはつまり、他者を安易に排除することなく、共存への道を探るようになるということでもある。結果、ポピュリズムとは逆の方向に進んでいく、みたいなことは言えるかもしれません。

アイデア大全――創造力とブレイクスルーを生み出す42のツール
アイデア大全――創造力とブレイクスルーを生み出す42のツール

で、多様な価値の可能性を探る、価値の門を開いておくために使えるのが、実は発想法です。発想法は柔軟な思想を求める行為であり、ときに自分と逆の考え方をあえて自分で採る、みたいなことも行います。それは多様な価値観を引き受ける下地になってくれるでしょう。発想法は単なる生産効率上のノウハウなのではなく、人としての価値観を変容させるツールでもあるのです。

世界はなぜ「ある」のか?:「究極のなぜ?」を追う哲学の旅 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
世界はなぜ「ある」のか?:「究極のなぜ?」を追う哲学の旅 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

ということで、そうした思考ツールの代表格と言えば、哲学でしょう。本書はもっとも根源的な(あるいはそのように思える)「世界はなぜあるのか?」という疑問にアプローチする著者の旅行記です。著者は、世界を飛び回り、時空を飛び回り、自分の頭の中を飛び回ります。この旅を終えて帰路についたとき、ほとんど間違いなく世界は違って見えるでしょう。

というわけで、2017年上半期ブック14をお送りしました。次回は半年後くらいになるかと思います。

Good reading!

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