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『教師のiPad仕事術』(魚住惇)


著者より献本いただいた。「あとがき」で言及していただき、「参考文献」に拙著を二冊も挙げていただいている。感謝。


「iPad仕事術」というタイトルを見ると、それ別にiPadでやらなくても良くないですか? みたいな細かいネタを大量に詰め込んだ本を思い浮かべるが、本書はそういう企画に内容を合わせた本ではない。iPadは一つの軸ではあるが、本書の領域はもっと広い。

強いて言えば、「教師のデジタル仕事術」なのであるが、そう言い切れないのは学校という現場において紙という媒体をどうしても無くしきれないからだろう。その意味で、アナログ必須だと思われている学校現場で必死にデジタル化を進める一教師の悪戦苦闘、としても本書は読める。

目次構成がまた面白い。

序章 iPadを活用してこう変わった
第1章 書類と情報の整理法
第2章 タスク・スケジュールの管理法
第3章 授業の効率的な組み立て方
第4章 アイデア・アウトプット法
第5章 iPad周辺環境
第6章 キーボード談義
おまけ 僕のストレス解消法

前半部分は、いわゆる教師の仕事術である。毎日のように大量にPOPする紙(書類)を ScanSnapでデジタル化し、Evernoteに保存していつでも引き出せるようにしておく。一方でいちおうのバックアップとして紙そのものもざっくりと分類し、保存しておく。「すべてをデジタル化しなければ」という理念先行ではなく、現実的な着地点がここにはある。

また、iPadと(アナログの)スクールプランニングノートの両方を使ったタスク・スケジュールの扱い方や、授業では黒板ではなくプロジェクターを使ったり、Scrapboxに教材をアップロードして生徒がアクセスできるようにしたりなど、さまざまな工夫・試行錯誤が紹介されている。

個人的に興味深かったのは、テストをマークシート方式で実施して、その採点をデジタルで自動化しているという話だ。このやり方をすれば採点にかかる時間を大幅に削減できるし、どう考えても人間が合計得点を計算するよりもミスは減るだろう。その空いた時間で、教師はより実りのあることを実行できる。効率化とは、まさにこういうことだろう。

以上の話は、いちおう教師向けではあるが部外者が読んでも得るものは多い。それに、現代の学校事情を垣間見れる面白さもある。

続く後半部分は、いわゆる知的生産の技術だ。アウトライナー、iPad、GoodNotesアプリなど、教師に限らず使える知見が紹介されている。後半のさらに後半ではなかなかマニアックなキーボードの話、そして完全に趣味の領域であるコーヒー豆の話も展開されている。これが実に良かった。

なんといっても、教師だってひとり人間なのである(よく忘れられているようだが)。そこには趣味だって、こだわりだって、個人としての人生だってあるのだ。その全体像の中に「仕事」というものが位置づけられる。「仕事」の話しかしないのは、そうした全体像が立ち上がってこないので退屈な内容になりがちだし、ノウハウを自分なりに活かそうとしても、肝心の前提が見えてこなかったりするので、うまくいかない場合が出てくる。

本書は、著者という一教師の仕事のスタイルの提示であり、また著者が「教育」という仕事をどのように捉えているのかを示す本でもある。こういう骨太の本が今後もたくさん出版されるといいのにな、と個人的には思う。

それにしても、現代で情報化を教える教師が、アナログにどっぷり浸からざるを得ない環境にいるというのは、さぞかし大変であろうと予想する。しかし、その葛藤こそが、本書で紹介されているさまざまな工夫を生み出したのでもあろう。


魚住惇 [学事出版 2020]

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