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『凡人の星になる: 月間10万PVの雑記ブロガーが「凡人」を武器にするまでの七転八倒』(やまま)

読んでいて、ひどく懐かしい感じが湧いてきた。そうそう、自分にもこうして右往左往していた時期があったのだ、と。

本書は、ひとりのブロガーが、いろいろなところに頭をぶつけながらも前に進んでいく顛末を記したエッセイだが、結局そういう迷走はどんなブロガーにもあるのだと思う。最初からきちんと道を決めて、そのまま猪突猛進して、今の場所に辿り着いたブロガーなど、ひとりもいないのではないか。みんな、紆余曲折を体験してきている。

でも、そういうことはあんまり語られない。「ふふん、私は最初からこうあろうとしていましたよ」という顔を皆がしている。たぶん、その方がかっこいいからだろう。あるいは、その人の記憶の中では、実際にそうなっているのかもしれない。

本書では、そうした七転八倒があっけらかんと開示されている。むしろ話題のネタにされている。だから、本書を読めば「ああ、こういうのでもいいんだ」と思える点がいくつも出てくると思う。完璧な超人だけが、ブログを書いているわけではないのだ。

しかし、著者が「凡人」なのかどうかと言えば、それは凡人の定義によるだろう。

「凡人」
特にすぐれた点もない人。普通の人。また、つまらない人。

本書を読んで、著者が凡人であると納得する人は少ないのではないか。たいへん文章がうまいし、ブログを書くために会社を辞めるような人だし、食べ物に関する食いつき方の角度が独特である。おそらく、ブログもたくさんの方に知られており、私が拙著で掲示した「無名の有名人」(※)に近い人だろう。
※マスレベルでの有名人ではないが、特定のクラスタ内で存在がよく知られている人

だから、本書の著者はまったく「凡人」ではないとも言えるが、そう言い切ってしまう前に、凡人の定義を少し変えてみたらどうだろうか。つまり、「特にすぐれた点もない人。普通の人。また、つまらない人」ではなく、「自分のことを凡人だと思っている人」にすり替えるのである。

このように定義を動かせば、著者は立派な凡人になるだろう。そして、この本を手に取るであろう多くの人もやっぱり凡人になる。特にすぐれた点もなく、普通だし、つまらないと自分のことを思っている人。

本書はそうした人たちに「ブログ書こうぜ」と誘いかける。著者がブログを書く中で、あるいは自分のブログを人気にしようと悪戦苦闘する中で、自分の武器を見つけていったように、ブログを書くことを通して何かを得て欲しいと願う。成功の方法もわからないし、PVを荒稼ぎするテクニックもわからない。でも、一歩を踏みだし、そのまま歩み続ける勇気をくれる本である。

凡人の星になる: 月間10万PVの雑記ブロガーが「凡人」を武器にするまでの七転八倒
やまま [金風舎 2019]

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