異世界に女子大生が迷い込む、というよくある設定__ではあるのだが、特異体質に目覚めるわけでもなく、何かに変身するわけでもない。平々凡々な女の子だ。
そんな彼女が、元の世界に戻るために情報を集めて旅をする、というのが基本的な設定で、それ自体には特筆すべきことはない。だったら、つまらないのかというとそれは早計である。本作の面白さは、言葉に注目している点だ。
多くの作品において、異世界と言葉の関係はご都合主義で処理されている。しかし、本作は少し違った視点から言語に注目した。察しのいい人はタイトルから、その雰囲気を掴むことだろう。この辺りは少しネタバレにもなるので言及は控えるが、この世界設定はなかなか面白かった。
また、ミステリアスな雰囲気も実によく描けている。こう言ってはなんだが、あまり電撃文庫らしくない作品である。あるいは、傾向が変わりつつある兆候なのかもしれない。萌え的な要素はほとんどなく、ファンタジー世界の成長譚としてまっすぐな作品だ。今後の展開が楽しみである。
古宮 九時[KADOKAWA/アスキー・メディアワークス 2016]
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