とても幻想的な小説。
閉鎖的な山奥の村を支配する、奇妙なルール。その幹を為す不思議な力を持つ少女。そして、その少女に憧れ、守ろうとする主人公の少年。お話が進むにつれ、舞台となる世界は少しずつ明らかになっていくものの、常に不安定な足場を歩いているような気持ちがつきまとう。隠された謎があるような気持ちが消えない。
最終的にその謎は明らかになる。とは言え、そこから生まれるのは晴れた雲間から差し込むギラギラとした日光を彷彿とさせる開放感ではない。むしろ、シトシト降る雨のような、どうしようもない悲しみである。でも、その雨は決して苦くはない。たぶん、人生のような味がするのだろう。
意味深な台詞回しと、独特の世界観の構築を支える描写が特徴的な作品である。
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