物語仕立て風の自己啓発書。
たしか20歳くらいの頃にたまたま書店で見つけ、そのままのめり込むように読んでしまった。立ち読みである。結局、その後本も買ったし、人にあげたりもした。続編のシリーズも読んでみたが、本作が一番の出来だったように思う。
書いてあることは、なんてことはない。
これまでの自己啓発の定番ネタを皮肉的に否定した上で、新しい視座を提供しようとしている。でも、それ自身はやっぱり自己啓発だ。ただし、「自己啓発」にはならない。どういうことかというと、「これが成功の形ですよ。さあ、皆さんもここを目指してがんばりましょう」とは言わないわけだ。
そういう「自己啓発」の皮を被った他者啓発の本は多い。その点本書はあまり押しつけがましくない。加えて、「あらかじめ人生の目標を設定して、それをブレイクダウンして、一歩一歩夢に近づきましょう」的な言説をまったく信じていない私のようなひねくれものにフィットする内容が書いてある。それは目標や夢といったものに仮託され、結果として「生きる」ことから疎外されがちな確かな生の充実感の回復へともつながっている。
「試してみることに失敗はない」
「明日は今日と違う自分になる」
「遊び感覚でいろいろやって、成り行きを見守る」
なんのことはない。今の私が、あるいは今までの私が実践してきたことだ。
本書のおかげかどうかはわからないが、私は常に「試すこと」を続けている。終わらない実験。でも、それこそが誰も辿り着いたことのない場所に辿り着くための、たった一つの冴えたやり方である。そして、それが充実感を持って生きるために私が必要としていることでもある。
私がどうあろうと、世界は変化している。そのことを忘れてはいけないだろう。世界と私を適切に関係づけるためには「試すこと」(あるいは実験)は欠かせないのだ。でないと、独りよがりの坑に落ち込んでしまう。
「仕事は楽しいかね?」
というタイトルは、あっさりしているが挑戦的でもあった。今の日本社会の状況を考えれば、うまい邦訳だったと言えるだろう。