原題は「Phantoms in the Brain」。そのままですね。
脳に損傷を受け、ちょっと「奇妙な」行動を取る人たちを観察し、そこから人間の知覚についての原理を探り出す、というのが本書のテーマ。
第一章には、
これらのシンドロームは、単なる珍奇な症例ではなく、正常な心と脳の働きの根本原理を説明する事例であり、身体イメージ、言語、笑い、夢、抗うつなど、人間の本性を特徴づけているものを解明するのに役立つ。
と書かれています。
こうした脳に関する本を読むたびに思うのが、どれほど私たちの脳が高度な処理を行っているのか、という点です。私たちの脳は、認知的過ちをおかしますが、それ以上に複雑なことをやすやすとやってのけています。ホームランをばんばん飛ばす4番バッターが、バントが不得意だといって一体誰が文句を付けるでしょうか。
そうした高度な脳の働きは、私たちにとっては日常であり、当たり前でもあります。だから、深く考えることはありません。なぜ私たちは笑うのでしょうか。一体どこから「私」という感覚が生まれているのでしょうか。普段は目を向けないこうしたテーマが本書では随所で扱われています。ひとたびそれらについて考えれば、私たちの「当たり前」はグラグラと揺さぶられることでしょう。
本書は少し難しくそして厚みがあるにも関わらず、すらすらと読めてしまいます。興味深い実例、示唆深い引用、そして少々のユーモアで構成される本書は、読み物としても一級品です。中学生では厳しいかもしれませんが、高校生ならばきっと読みこなせるでしょう。
養老孟司氏の『唯脳論』を合わせて読むと面白いかもしれません。
V・S・ラマチャンドラン、サンドラ・ブレイクスリー[角川書店(角川グループパブリッシング) 2011]