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「じぶん書店」について

5月15日に「じぶん書店」が公式にスタートした。

じぶん書店

プレオープンは4月20日から行われていたのだが、電子書籍の購入機能が追加されたことで、ようやく「書店」として振る舞えるようになった、ということだろう。

たまたま今週のWRM(私の運営しているメルマガ)で、読者をつなぐような大きな場(プラットフォーム)が日本には存在していない、といったことについて書いたのだが、はたしてこの「じぶん書店」はそのような役割を担えるだろうか。それについて少し考えてみたい。

じぶん書店とは

まず簡単にプレリリースを確認しておこう。

講談社「じぶん書店®」本稼働開始 4,000書店が一斉にオープン!!|株式会社講談社のプレスリリース

書店開設を希望されるユーザーは、上記URLのサイトで会員登録を行い、講談社が展開している電子書籍約32,000点の中から、売りたいタイトルを選び、推薦コメントを入れるだけで、簡単に自分の電子書店を開設することができます。開設に費用は一切かかりません。

講談社が展開している約32,000点の本を紹介し、その販促に貢献することができる。さらに、単に本を紹介するだけでなく、独自のアフィリエイト機能がついている点も見逃せない。

電子書籍が売れた場合、10%のアフィリエイトコインが書店運営ユーザーに振り出されます。このコインは電子書籍の購入や、書店に並べられる商品点数の拡張などに使えるほか、エクスチェンジサービスと連携しているので、他のポイントやマイルに替えることも可能です。

おそらくはここがポイントだろう。まず、10%という料率。そして、そのコインが電子書籍の購入に使えるだけでなく、他のポイントにも変換できるということ。それはつまり(等価交換ではないものの)現金を手にすることも可能、ということである。

以下の記事に解説がある。

販売報酬は破格の10%! – 日経トレンディネット

アフィリエイトコインは、じぶん書店で電子書籍を購入したり、じぶん書店の機能拡張などに使用できる。また、ポイント交換サイト「ドットマネー(.money)」を利用することで、現金やTポイント、JALのマイレージなどとも交換が可能だ。現在の交換レートは10アフィリエイトコインで9マネーとなっており、現金に交換する場合は、10アフィリエイトコインで9円相当になる。

サービス内に閉じたコインであれば、ユーザーへの希求力は乏しくなるが、ポイントに変換できるなら魅力はぐっと上がる。せどり的な、個人でできる「ビジネス」として扱われることも、可能性としてはありうるわけだ。

言うまでもなく、Amazonはアフィリエイト(アソシエイト・プログラム)をたいへん活用している。ユーザー一人ひとりを代理店として扱うことで、ネットで何かを買うならば(特に本を買うならば)Amazonでという風潮を生み出しているわけだ。なにせネットで表示される本の紹介リンクの大半がAmazon行きなのである。もはや、私たちは呼吸のようにAmazonリンクを設置し、それを踏んでいる。

それは利便性の面ではたしかによいのかもしれないが、健全な企業の競争という観点からはあまり芳しくない。Amazonが力を持ちすぎてしまったときに、対抗するものがないと自由気ままに振る舞われてしまうからだ(今もうそうなっている、という指摘もあるだろう)。

はたして「じぶん書店」は、そのAmazonアフィリエイトシステムに対抗しるうのだろうか。

現状はやや厳しいという読みを私はしているが、それについて論考する前に「じぶん書店」が目指す方向を確認しておいた方がよいだろう。

じぶん書店の新しさ

再び日経トレンディネットの記事より引用する。

その結果、すでに世の中にある販売報酬サービスである「アフィリエイト」を一歩進めた仕組みとして、“書店+アフィリエイト”という形が企画された。それが今回のじぶん書店になった。トップ画面を見てもらうと分かるが、利用者が思い思いの書店名を付けられるなど、本好きなら「ちょっとやってみたい」と思えるサービスに仕上がった。

「書店+アフィリエイト」という形は、実はすでに存在している。Amazonアフィリエイトでは、「インスタントストア」が作成でき、簡単にウェブ上に自分の書店(という名のAmazonの出張販売ページ)を実現できる。

そもそも、ブクログや読書メーターなどは、直接の販売を行うことはないにせよ、ユーザーが「自分の本棚」を公開できるサービスであり、広義の書店作成サービスであるともいえるだろう。ただし、そのようなサービスでは、アフィリエイト機能はAmazonのものを利用しているので、包括的な視点ではAmazonの延長線上にあるとも言える。

その意味で、「書店+アフィリエイト」というのはAmazonの二番煎じではあるのだが、独自のアフィリエイト機能を実装し、かつそれがブクログのように一つのプラットフォームの中に集まっているという点で、つまり個々の書店のSNS的つながりが生み出される点が、インスタントストアとの違いと言える。

一冊の本から、その本を推している書店を辿ることができ、それが次々に新しい本との出会いへとつながっていく・・・・・・というストーリーは描きやすいだろう。Amazonで言うならば、面白いレビューコメントを書いている人の履歴を確認して、その他の本のコメントを読んでいくような体験が可能、ということだ。

よって、このサービスが、本と本の出会いを助ける機能を持ちうることは、十分想定できるだろう。ただし、二つ問題がある。一つは、登録できる本の数。もう一つは、ユーザーが本を登録してくれるか、だ。

抱える二つの課題

「じぶん書店」は、講談社のサービスであるわけだからして、講談社の本から書店を作ることになる。言い換えれば、「講談社の本だけが並んだ書店」が作れるわけだ。もしかしたら世の中には、「自分は講談社から出版されている本しか読みません」みたいな人もいるのかもしれないが、大抵の本読みはそうではないだろう。

書店として見た場合でも、「仕入れ先」があまりにも少なすぎるし、新しい本との出会いの場と考えても、可能性が限定されすぎている。

とは言え、サービスシステムの開発・運営はメディアドゥが行っているらしく(※)、メディアドゥは電子書籍取次として講談社以外の出版差の電子書籍にも関わっているだろうから、今後取り扱える電子書籍が増えることは予想できる。
講談社「じぶん書店®」4月20日より、事前登録開始! 本オープンは5月15日に決定|株式会社講談社のプレスリリースより。

日経トレンディネットの記事にも、以下のようにある。

その一方で、販売できるコンテンツを拡大する計画も進める。現時点では、講談社の電子書籍だけが販売できるのだが、これをほかの出版社にも広げる。すでにいくつか他社から問い合わせなどもあるという。加えて、書籍だけでなく、動画、音楽の取り扱いも検討しているとのことだ。

他の出版社にも広げることが示されているし、書籍以外のコンテンツの取り扱いも検討されているらしい。これは大切なことだ。マンガを紹介するならば、そのマンガがアニメ化されたDVDも紹介したくなるだろうし、OP曲も紹介したくなるだろう。現代のメディアはそのような全方位の展開をしているわけだからして、それを紹介するための機能も全方向の対応が必要である。

この点で、今後の取扱商品の拡充に関しては期待は持てるのだが、他社からの参加が不十分であれば、アフィリエイト的にも本の出会いの場的にも瑕疵が残ることになる。本というのは基本的に多様性が肝であり、有名どころしか参加しないのであれば、書店の新刊コーナーと変わらなくなる。それではネットのロングテールの力も活用できない。

Amazonであれば、紙の書籍も扱っているので、「Amazonに電子書籍を提供するのは嫌だな」と思っている出版社があっても、その出版社の本を紹介するユーザーはアフィリエイトを獲得できる可能性がある。ロングテールの長い尻尾を取り込めるわけだ。

これが大手出版社しか参加しないとなると、「そこそこ」満足できるサービスにはなったとしても、「やっぱりAmazonだよね」となって、ユーザーが定着しない可能性が出てくる。これは由々しき事態である。なにせ、この手のサービスの肝は、ユーザーが定期的に本を紹介(登録)してくれるかどうかにかかっているからだ。

逆に、ユーザーの活動の活発性が一定の閾値よりも上であれば、紹介が進む→それを見たユーザーが本を買い、自分でも紹介を始める→それを見たユーザーが・・・・・・という風に好循環が回っていく。具体的な数はわからないが、その閾値を超えるかどうかが重要であって、「そこそこ」満足できるサービスではそれが難しい。

動機を提供できるか

で、ユーザーが本を登録してくれるかどうかだが、3つポイントがあるように思う。

まず扱える本の数だが、これは先ほど触れた。次に、操作性や見た目の問題で、はっきり言って現状のUIはかなり使いづらい。何をどうしたら、どういう状況になるのかの予測が立ちにくいので、いちいち立ち止まってしまう。モバイルに最適化されたデザインは、パソコンではほとんど不快ですらある。が、このあたりは(予算次第で)いくらでも改善可能だろう。で、最後の一つのポイントが動機付けである。

世の中には、Amazonで取り扱えるすべての本が取り扱え(AmazonのAPIを使っているのだから当然だが)、たいへん使いやすく美しいUIを持った本の紹介サービスがあったりするのだが、なかなかユーザーが投稿してくれないことがある。動機付けが足りないのだ。

現状、「じぶん書店」で一番インパクトがあるのが、この動機付けの部分だろう。独自のアフィリエイト機能であり、しかもその料率が10%だというのだ。現状(2017年5月16日現在)、Amazonのアソシエイト・プログラムで10%なのは、Amazonビデオ(レンタル・購入)とAmazonコインだけであり、Kindle本で8%、紙の本だと3%とかなり低い。まあ、単に紹介しているだけで何の在庫リスクも負ってない人間の取り分としては3%でももらえればありがたいのかもしれないが、それを考えると10%は魅力的である。

同じ本を紹介する場合でも、それが「じぶん書店」で取り扱っているものならば、「じぶん書店」で紹介しようという動きが出てくることは一応考えられる。一冊二冊ならたいした違いはないが、多く本を売っている人ほど2%の違いは大きいからだ。それにAmazonはいつその8%を下げてくるかもわからない(上げることはまず考えられない)。だからもし、それが6%とか5%になったら、そして本の取り扱いがある程度増えるなら、「じぶん書店」の存在感が増すことはありえるだろう。

さいごに

しかし、である。

使い勝手が良く、品揃えも豊富で、料率が高いとなれば、「業者」がこぞって参加するようになるだろう。その人の好きな本を紹介するのではなく、売れる本・売りやすい本・売れている本ばかりの情報を流す「書店」が増えたら、SNS的な本との出会いの価値は薄まってしまう。

だから、(Amazonもやっているように)アフィリエイトのリンクをブログなどに貼り付けられる機能を持たせた方が良いだろう。そうすれば、タイムライン的なものが汚染されたとしても、本との出会いの種子はウェブ中に広がっていくいくはずである。

加えて言うならば、ユーザー同士が意見交換できる機能を持たせれば、さらに本の紹介(登録)への動機付けが生まれるはずである。しかし、(議論と喧嘩の距離は近いので)それをコントロールするのは簡単ではないだろうし、少なくともサービス提供企業の胆力は求められる。ただし、もしそういう場が設定されるのならば、このサービスは単なるじぶんなりの書店以上の機能を持つことになるだろう。


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