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『86―エイティシックス―』(安里アサト)

第23回電撃小説大賞《大賞》受賞作らしいが、賞をとったからといって小説が面白くなるわけではない。イラストが気に入って手にとってみた。

なるほど。たいした作品である。私は暗いテイストのライトノベルが好みだが、まさにジャストだ。ここ最近のライトノベル的なお約束から逸脱していることに、興味と好奇心を覚える。ただし、その分冒頭が読みづらい。視点が定まり切らないのだ。そのことは、本作が辿る道筋とも関係しているのだが、ネタバレとなるので言及は控えよう。

人間が持つ愚かさと尊厳が、メカニックアクションを絡めながら描写されているのだが、微妙ながらも注意を引いたのが、知覚同調による意志の交流である。言ってしまえば簡単なテレパシーなのだが、現場と指揮官がまったく別の場所にいて行われるやりとり__『マージナル・オペレーション』を彷彿とさせる__に微妙な機微が込められている。なんとなく感情が伝わってしまうという、新しいメディアのやりとりにはたしかなSF感があった。

ほのぼのとしたファンタジーを望むのならば近寄らない方が良いだろう。『鉄血のオルフェンズ』などと近しい匂いがする。そんな作品だ。

86―エイティシックス― (電撃文庫)
安里アサト イラスト:しらび メカニックデザイン:I-IV [KADOKAWA 2017]

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