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映画『ズートピア』

さすがのひと言に尽きる。

舞台は、動物たちが進化し、文明と理性を獲得した社会。その中でもズートピアという都市では、草食動物と肉食動物が一緒に生活している。動物たち(Zoo)のユートピア__に思えるのだが、その社会には動物差別が当たり前のように動物たちの意識に浸透していた。

夢を信じ、初めてのウサギ警官となったジュディ・ホップスは、ひょんなことから連続行方不明事件を担当することになる。限られた情報源の一つであったキツネの詐欺師ニック・ワイルドもそれに加わる。二人が手探りで事件の調査を進めるうちに、もっと大きな闇の影が……と、ストーリー自体はシンプルだ。二転三転はあるものの、突飛なオチというわけでもない。

ただし、脚本がおそろしく絶妙で、まったく飽きがこない。序盤は多少テンポにもたつきがあるものの__子ども向け映画なのだから、これは当然の配慮だろう__、ジュディが本格的に捜査を始めてからは、ぐいぐいとストーリーに引き込まれていく。伏線の使い方もまったく危なげがない。「面白い物語の作り方」のお手本のような脚本である。

動物社会を人間社会のメタファーとして使う手法は、古くからある。風刺的な作品では特にそうだ。その点で言えば、本作は飛び抜けた何かがあるわけではない。動物の配置に面白さがあるくらいだろう。でも、そういう微妙なところが作品全体の質を高めるのだから、侮れない。

また、部分的ではあるが『アナと雪の女王』の相対化がはかられている。おそらくこの社会でもディズニーみたいなものがあって、そこが似たような映画を制作しているのだろう。

「ありのまま」という言葉を、動物に直接当てはめれば、それは「理性を捨てて、野生に戻ろう」ということになる。あるいは「ウサギはウサギらしくする」かもしれない。どちらにせよ、それはあまり望ましくない結果を導いてしまうだろう。ようするに、「ありのまま」は、努力や鍛錬を拒絶する言葉として機能してしまうのだ。自分を窮屈な型にはめる必要はなにかもしれないが、「ありのまま」だけでは足りないよね、というメッセージが本作にはある。ちなみに、主人公のジュディ・ホップスは「アナウサギ」らしい。偶然だろうか。

とりあえず、非常に良くできた物語だ。素直に楽しめて、ちょっぴり考え込む。その絶妙なバランスは、見事と言うしかない。

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監督監督 リッチ・ムーア、バイロン・ハワード [ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社 2016]

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