ダークホース。かわいい絵柄なので、「アビスにいるメイドさん」みたいなものを誤って想像していたが、実際かなりディープなお話だった。そもそもタイトルからして意味深である。アビス製。何が?
物語の序盤では、主人公たちが探掘家であることが語られ、持つ笛の色によってそのレベルが判別されるという仕組みがあることから、徐々に冒険を重ねていき、「白笛に、俺はなる」みたいな展開が待っているのかと思いきや、一気に深層を目指すと言う。その理由が切実かつ切ない。
しかし、明らかにレベル1の主人公が、深層を目指すというのは、よくわからない強力なパートナーがいるといってもさすがに設定的に無理がないかと思っていたら、オーゼンの登場である。ものすごく悪役っぽい登場の仕方だが、彼女が訓練を積んでくれるということで、ここで一気にレベルアップが可能となるだけでなく、主人公リコの過去も明かされ、この時点でいろいろな要素が符合していく。
あとはこのまま二人の冒険譚が続くのかと思いきや、エンディングにずっと登場しているのになかなか姿を見せなかったキャラが、主人公たちの窮地に登場するではないか。ナナチだ。そこから急激に虚淵的展開が始まるのだが、さすがにレグ砲が弔いの想いと共に放たれたときには、うっかり涙ぐんでしまった。度し難い(言ってみたかっただけ)。
映像の美しさも素晴らしいし、富田美憂&伊瀬茉莉也のOP曲も良かった。なにより、高い塔を登るのではなく、深淵に引きつけられるように穴に下りていく、というその状況設定そのものが、クリティカルである。私たちは底に行けば行くほど、元居た場所に戻るのが難しくなる。気圧の問題ではない。私たち自身が、アビスの底に惹かれる性質を持っている、という点にこそ、原因があるのだ。
行きはよいよい 帰りはこわい
それでも私たちは、前に進んでしまう。闇の底に向かって、しかし光を手にするために進んでしまう。そういうものとして存在している。
監督: 小島正幸 [KADOKAWA メディアファクトリー 2017]