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マヨネーズ(オドネル・ケビン)

Kindleダイレクトパブリッシング本です。価格は199円(2016年4月13日現在)。著者は海外の方ですが、翻訳ではなく、本人が日本語で執筆され、それを日本人がチェックした、という形のようです。

あえてジャンルを設定すれば、前衛小説となるでしょう。読み始めた瞬間は、シュールレアリズムなのかなと思いますが、読み進めるとそれが圧倒的勘違いであることがすぐにわかります。

ストーリーには目立ったところはありません。ただし、この作品は異常です。異常すぎて「?」が真っ先に浮かび、徐々にその怖さが明らかになってくるホラーのようなインパクトを持っています。日本語に対して真っ向から挑戦状をたたきつけている印象すら覚えます。森博嗣さんの『実験的経験』もかなり尖った作品ですが、本作と比べると「常識に配慮した」作品に思えてきます。それぐらいヤバい作品です。

最初にやってくるのは、ゲシュタルト崩壊です。書き表された文字とそれが持つ意味が溶解し、次にその言葉のイメージそのものが溶けていきます。あまり内容に触れないように書いているので、すでに「何のこっちゃ?」という方もいるでしょうが、とりあえずこのまま進めていきましょう。

この作品の最大の面白さは、そういう異常な環境に置かれていても、作品を読むことが可能だ、という体験を提供してくれることです。意味がわからないなりに、分かるのです。これは日本語という言語がハイコンテクストな性質を持っているからなのかもしれません。

著者は名詞・動詞・形容詞・比喩・格言まで「魔の手」を伸ばしていきます。しかし、そんな状況であっても著者が世界を描き、読み手がそれを受け取るということが可能なのです。明らかに過剰な「演出」なのですが、ギリギリの所で日本語の形は残しています。

もちろん荒さはあり、「もうちょっとな」と思うところはありますが、意欲作であることは間違いありません。

おそらく、「編集会議」というフィルターが存在する市場では決して表舞台に出ることはない作品です。

ただし面白いか、面白くないかで言えば、かなり微妙でしょう。おもしろがれる人がいる、というくらいのものです。でも、興味深い作品であることはたしかです。そして、この小説ならではの体験を提供してくれる点も確実です(人によってはその体験は不快なものになりえるでしょう)。

あと、この作品はどうあがいても映像にはなりませんね。なぜかは読めばわかりますし、興味がない方は深く考えないでOKです。

「荒っぽいながら、意欲的」という意味で、まさにKDPらしい一作だと言えるでしょう。

マヨネーズ
オドネル・ケビン[オドネル・ケビン 2013]

実験的経験 Experimental experience (講談社文庫)
森博嗣[講談社 2014]

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