SF作品。
現代的なアイコンをうまく取り込みながら、未来世界の恐ろしく整った、それでいてどうしようもなくいびつな姿を描いている。
「私たちはどこに向かっているのだろうか」。人が意識と言葉を持ち、科学を発展させる中で持ち続けてきた問い。それが無くなった世界は静止してしまう。はたして、それは人間性の放棄なのだろうか、それとも幸不幸という二項対立からの脱却なのだろうか。
SFの容れ物を用いてはいるが、むしろ著者の視点はしっかりと現代を見据えている印象を覚えた。
構成に関して言えば、各章の冒頭が虚構の書物からの引用となっており、主人公の視点を動かすことなく、世界を多面的に描く手法は非常に上手い。年表でしか語られていないビフォーの世界も、それ自体が一つの作品となりそうな予感すらある。
少し長い作品ではあるが、さらなる叙述を受け止めるだけの骨格はありそうだ。
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