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『ブックマートの金狼』(杉井 光)

2016年2月15日創刊された「ノベルゼロ」レーベルの第一弾。大人向けのライトノベルということで興味を持ってラインナップを眺め、とりあえず見知った作家の作品から読み始めた。

杉井光では、電撃文庫の『神様のメモ帳』が私は大好きである。ともかく暗い。そして重い。飄々としていながらも、ずるずると足を引きずって歩くような感覚がどこまでも付きまとってくる良い作品である。

では、本作はどうか。

タイトルかもわかるように、本書には本と書店が登場する。主人公は書店の冴えない店長なのだが、おおっぴらにしにくい過去を持っている。「元トラブルシューター」という過去だ。カタカナでかっこよく書いてみたものの、要するに厄介ごとを片付ける荒くれ者である。そんな過去からきっぱり足を洗って、毎日忙しい書店の店長業務をこなす主人公に……というのが話の始まりである。

まず読んでいて、全体的に安心感がある。筋運びも心地よいし、ときどき顔を覗かせる本の話もきっと読書好きの心を惹きつけるだろう。ただ、ボリュームの問題もあるのか、キャラクターの立ち方が弱い。主人公とヒロインっぽいキャラは良いのだが、その周辺はややぼんやりしている。過去の描写がもう少しあれば、印象は違ってきただろうか。

ただし、これは一つの転換と言えるのかもしれない。つまりこれまでのライトノベルはキャラクター小説だったわけで、ある意味でキャラが全てであった。でも、本書はそこがトーンダウンしていても物語としてはきちんと成立している。おそらくそれは読み切りだから、という部分もあるのだろう。シリーズ物であれば、もう少し個々のキャラクターを濃く描く必要が出てくるに違いない。

が、それはそれとして、本書は最初から最後までちゃんと面白い話である。

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<a href=杉井 光[KADOKAWA / メディアファクトリー 2016]

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