書籍がどんどん電子化して困るのは、出版社ではないのでは? – 佐々木正悟ブログメモ
電子書籍の普及が進んでいるように見える。
不思議なのはこの件について「出版社が、悩む」みたいな話を聞くことで、私など素人からすると、悩むのは出版社じゃないんでは?と思えて仕方がない。
出版社は、紙だろうと電子だろうと、売れればどっちでもいいんではないだろうか。
仮にすべての書籍が電子化されて間違いなく困るのは、紙の本を運んできたところと、並べてきたところのはずである。出版社はそのどちらでもない。
すべての書籍が電子化されて困るのは、もちろん紙の本を運んできたところと、並べてきたところだろう。では、出版社は紙だろうと電子だろうと、売れればどっちでもよいのだろうか。
いくつかの視点から考えてみたい。
ビジネスモデルの変更
まずはビジネスモデルが変わる。
今のところ紙の本は出版取次が存在し、そこが金融の機能を担っている。電子書籍はデータ納品があるだけであり、取次が存在したとしても大規模な金融機能は期待しにくい。
金融的バッファーが存在することで出版社の経営も(直にやりとりするのに比べれば)ゆったりと構えられたはずだが、実売オンリーだとともかく売上げをすぐに作れないとまずい。電子だって作るのにコストはかかるし、従業員には毎月給料を払う必要があるのだ。
もちろん、すでに資金的な体力が十分にあるところであればあまり関係のない話だし、はじめからその体制にシフトした組織を作っておけばこれまた問題ではない。が、「移行期」にはいろいろなところで摩擦が生じるだろう。
ノウハウの追加・変化
出版社には営業部がある。紙の本の営業先と言えば、一般的には書店だ。営業さんは、書店と顔をつなぎ、本を置いてもらえるように、売ってもらえるように精力的に動く。
では、電子書籍ではどうか。電子書籍にも電子書籍プラットフォームはあるが、それはこれまでの書店ではない。新しい顔つなぎが必要となる。
あるいは自社で販売プラットフォームを立ち上げることもできる。となると、自分で書店を構えるのとほとんど同じだ。
さらに電子書籍の営業・販促は、ユーザー(読者)に向けて動くことが効果を上げるための一つの施策である。
総じて新しい仕事であり、そこに新しいノウハウも必要になる。一時的にコストはあがるだろう。
価格の変化
現状、紙の本を電子書籍化したものについては電子書籍の方が少し安くなっている。電子書籍用に特別にコンテンツをリメイク・再構築したものは例外となるが、概ね紙よりも少し低く値付けされている。
さらに、セールがある。セールの値引き分をどこが引き受けるのかによって微妙に変化はあるが、誰かが手にする利益は減ることになる。
さらに、定価そのものを変えることできる。紙の本では廉価版などといって新パッケージで値下げをしていたが、そういう手間は必要ない。その分、「おまけ」をつけてお得感を出すことは少し難しくなっている。
もっと先をみれば「読み放題」のサービスも出てくるだろう。そこで本はどう読まれるか、そしてどう利益が捻出できるのかは、まだまだ見えていない。
全体的に見て、利益マネジメントの手法は紙の本に比べて複雑性が増す。
さいごに
最終的に言えば、出版社というコンテンツビジネスは、紙であろうが電子であろうが売りたいものが売れればそれで問題ない。ただし、ある時点の環境に最適化しているものが、別の環境に移行するには抵抗が発生する。コストであったり心理的抵抗であったりといったものだ。
すでに獲得した資源、スキル、ノウハウといったものが変化を迫られ、新しい追加を求められる。しかし、会社はシステムである。そしてシステムはレジリエンスを持つ。だから、少しぐらいの変化の要求なら弾いてしまう。
が、レジリエンスにも無限ではない。強度的限界はある。
よって、速度はどうあれ新しい環境に適した変化は行われるだろう。頭を抱えながらも。