木村泉氏の『ワープロ作文技術』に構想の育て方が紹介されている。大きく二つの方式がある。
・太公望方式
「メモを書いて、それをふくらませて」
・魚群探知方式
メモをはじめから組織的に書こうと努力する
それぞれ具体的にみていこう。
太公望方式
- 思いついたときその場で思いついた範囲のことを書き下ろす(糸口メモ)
- ワープロに入れる。
- →多少文章っぽくしてもいいが、基本的には走り書きをそのまま入れるつもりで
- ワープロ化したメモは紙に打ち出して持って歩き、気の向いたときに見て思いついたことを書き添えていく。
- 紙が書き込みだらけになったら、その書き込みをワープロのファイルに反映させる
- その過程でメモのどこかとどこかの間に関連性が見えてきたような場合には、それもワープロのファイルに反映させる。
- →たとえば関連のある項目をファイル上の近い場所に移す。
- →節の表題など思いついたら、それも打ち込んでおく。
- ひとしきり書き込んだら、また紙に打ち出して持って歩く。
- {打ち出す・書き込む・反映}を繰り返す。
魚群探知方式
※『ワープロ作文技術』p.39より
- 目次案をベースに太公望方式を行う
- 目次案は「原稿が影も形もないうちからその構成をまことしやかに書き出したもの」で、これは文章書きの個人的道具としても役立つ
- →たとえば見落とした材料はないか、あるとすればそれはどのあたりにありそうか、と探してゆく上での道しるべとして役立つ
- →大部分項目の表題ばかりで、文章らいし文章はほんの数行
- →★は、その項目に書き込んである文章が未完成品であることを示す
- ただしトップダウンでは進まない
- →目次眼がそのままの形で最終原稿の目次として残るのは、むしろ極めて稀なことである。
その他補足
以上二つの方法は、基本的に少しサイズの大きい文章を書くために使う。短い文章なら頭からいきなり書いていってもいい。
ちなみに、天才はこれらの方法を使わなくても、大きな文章ですら頭からすらすらと筋の通った文章を書き下させる。しかし凡人には方法が必要。
中規模の文章なら太公望方式でもいけるが、さらに大きな文章となると太公望だけでは行き詰まる。魚群探知方式は太公望方式を補うものとして、きわめて強力。
太公望方式解説
まず、太公望方式は二つのステップに分かれている。糸口メモの作成とそのワープロ化である。ちなみに本書の出版は1993年であり、ワープロは執筆ツールとして現役で使われていた。現在の視点で読み替えるなら、パソコンのワープロソフトあるいはテキストエディタソフトとなる。
何かしら思いつくことがあったとき、いきなり「第一章第一項」から書き始めるのではなく、とりあえず書ける範囲だけのものを書いてしまう。それは手書きメモで充分。たとえば、「生きた知識の作り方」で何か閃いたとして、「生きた知識を最初に定義するとうんぬんとなる」とまったく思いもついていないことを書こうとするのではなく、「知識とはシステムであり、そのシステムを作ることが肝要」みたいな閃いたことだけを書き留めるわけだ。
そして、その書き留めたものを「ワープロ化」する。このワープロ化が現代での一つの鍵であろう。
なぜなら私たちはすでに手元にワープロを持っているからだ。簡単に言えば、スマートフォンからテキストファイルを開き、そこに書き込むことができる。だったら、手順を大幅に簡略化できるか、というと少し足を止めたい。
いきなり全体に書き込んでしまうと、あるステップが完全に飛ばされてしまう。そのステップとは「その過程でメモのどこかとどこかの間に関連性が見えてきたような場合には、それもワープロのファイルに反映させる」だ。これが案外大きい。
木村氏の手順では、原稿を紙にプリントアウトし、そこに手書きで書き込んで、その内容を原稿ファイルに反映する作業がある。で、その作業をやっているときに何かしらの発見があるものなのだ。これは実体験からも頷ける。
で、思いついたときにいきなり原稿ファイルに書き込んでしまうと、この作業がすっ飛ぶ。これがいいことなのか、悪いことなのか。
個人的には「一拍」置いた方が良いと思う。原稿を筋道だったものにするには、あるいは何かしらの深みやおもしろみを付与するには、「一拍」の呼吸が生きてくる。
この「一拍」の活かし方についてはまた改めて研究してみよう。とりあえずは、「思い付き」と「原稿」の関係だけ把握しておけばよい。
魚群探知方式解説
魚群探知方式は、太公望方式に一定のベクトルを与えるものだ。あらかじめ考えること・順番を決めたメモを作っておき、それに基づいて文章を書き足していく。それ以外は太公望方式とほとんど同じである。
ポイントは、やはり最後の点だろう。当初立てた目次案は最終的な目次案とはイコールにはならない。文章を書いていくうちに構造が変わっていく。構造は素材によって決まるのだから、これは至極当然のことである。
よって、当初立てた目次案は、文章化の潤滑油としては意識していても、最終的な構造の拠り所にする必要はないし、むしろ固執してはいけない。
さいごに
現代でワープロを使っている人は少ないだろうが、デジタル・アナログのツールの使い方として、この二つの方式は参考になる。
ただしポイントは「ワープロ化」である。この点は改めてじっくり考える。
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