めちゃくちゃグーグルっぽい会社に勤めている若手プログラマーであるケイレブは、ある日社長の別荘に訪問する権利を抽選でゲットする。不安と期待を抱きながら、山奥の別荘に足を踏み入れたケイレブは、社長ネイサンに極秘の計画を打ち明けられ……
というようなあらすじ。登場人物は少なく、景色は美しく、ストーリーは怖い。
[※以下多少ネタバレあり]
その怖さはどこにあるだろうか。一義的には人工知能によるシンギュラリティ、ということだろう。ネイサンはその到来を切望と絶望を同時に持って待ち受けている気がする。ケイレブは極めて人間的であり、人工知能のエヴァは……、言ってみればこれも極めて人間的なのである。擬態する動物はたくさんいるが、相手の心理を踏まえた上で自分の言動を変えられるのはやっぱり人間的な行為であろう。
だからエヴァが徹底的に遺伝子改良された人工授精ベイビーだったとしても、本作には似たような恐怖感が漂うことだろう。結局の所、似ているのに異質なものを私たちがどのように扱うのか、という問題に過ぎない。
本作の二義的なホラーは、人工知能の方にはない。ネイサンは、「検索」によって、ケイレブを探し当てた。ほとんど見事なまでにネイサンの実験に必要な人材がケイレブだった。しかし、話はそううまくは進まなかった。エヴァがネイサンを上回ったのだろうか。いや、違う。本当に必要な人物をネイサンは捜し当てられなかったのだ。人間が、どのように振る舞うのかを、本作の「検索エンジン」はシミュレーションできなかった。
つまり、本作の怖さは、ケイレブが取った行動、取ってしまった行動にある。彼は読み切れない行動を取った。それに比べれば、エヴァはおそらくそうするであろう行動をきちんと取っている。そこには「まさか、そんな」という要素はどこにもない。
結末的に、ケイレブはギフトを手にしたとは言えないだろう。しかし、革新の可能性は、常にそうしたわけのわからない行動に潜んでいるものである。
監督:アレックス・ガーランド [NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン 2016]