作者のずいぶん初期の頃の短編集らしい。細かい部分が見えにくい(悪く言えば荒い)ところもあるが、じめじめとした人間的暗さと、SF的感覚はこの頃から絶品である。
「イルカの森」は、いかにもSF的世界観であり、「言葉使い師」は(どう言えばいいのかわからないのでとりあえずこう言うのだが)神林的かっこよさに満ちあふれている。それでも、世界というお椀に手を突っ込んで、ぐるりとひっくり返すような構造は「甘やかな月の錆」が飛び抜けているだろう。少しずつ明らかにされていく世界の図面はミステリ的に楽しめるし、そこに滲む人間的どうしようもなさと気概は文学的な奥行きを醸し出している。
ともかくまあ、暗い話が多いので、それは覚悟して読んだ方がよいだろう。他のどこにもない世界に誘ってくれるはずだ。
▼目次データ:
スフィンクス・マシン
愛娘
美食
イルカの森
言葉使い師
甘やかな月の錆
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