「亜人」と聞くと、殺しても死ななくて、黒い影を操ってバトルがはじまるぜ! みたいなものをついつい思い浮かべてしまうが、まったくぜんぜん関係ない。あっちの亜人は、疎外された人間ならざるもの(ただし見た目は人間)の反乱というシリアスなフォーマットだったが、むしろこちらは基本的にはギャグの路線で、「人間」外のものとの調和が語られている。
これは深刻で身近なテーマでもある。なぜなら「人間」など所詮定義に過ぎないからだ。そしてそれは容易に揺れ動く。一番極端な話をすれば、「劣等民族」とラベリングして、虐殺を行っていた連中は、その対象のことを「人間」だと認識していなかっただろう。人は、「人間」外のものに対しては、いくらでも好きなように振る舞う、あるいはおびえを感じる。どちらにせよ、そこに調和は生まれない。
とは言え、「人類皆兄弟」という空疎なスローガンもまた嘘っぱちである。人は一人ひとり違っているし、人種の違いも、文化の違いもある。それを無視して同一化するのは、別の意味で人の尊厳を奪うことだと言える。必要なのは、差異を踏まえた上で、自分の中にある「人間」の定義を拡張していくことだ。
みたいな難しい話はまったく出てこないので安心してほしい。とても面白く、じんわりと心に残る作品だ。独特のリズム感と、言葉遊びの感覚も楽しい。
Tags: