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『世界の果てのランダム・ウォーカー』(西 条陽)

知を欲するものの欲と業

高度なテクノロジーを持つ天空国家セントラルは、地上に調査官を派遣している。主人公であるヨキとシュカはまさにその調査官だ。彼らは対象地域に先週し、セントラルからの使者であることを隠して調査を行う。セントラルの存在は、地上では秘匿されているからだ。おとぎ話、あるいは神話の中にだけ、その姿が見え隠れする。

ヨキとシュカの素性ははっきりとは示されない。奔放なシュカが軍属上がりだということはほのかに示されるが、それ以外は何もわからない。ただ、彼らが知的好奇心に満ち溢れていることを除いては。

セントラルと地上国家には、テクノロジーの差があり、その差が「ファンタジー風SF」の構造を生み出している。ヨキやシュカが所属する世界はSFなのだが、彼らが旅する風景はファンタジーのそれである。これはなかなかうまい構造だ。

また、大きな物語がどんと示されるわけではなく、短編の積み重ねで話が進んでいく。冒険者というよりも、訪問者というのが近い。調査地一つひとつに物語があり、それが区切りとなっている。その意味では、『キノの旅』風ではあろう。

短編の連続とはいえ断片的な印象はないし、また単調にもなっていない。そして、なかなかに寓話的だ。知を求めるものの帰結とは何か。

しっかりと安心して楽しめる作品である。

世界の果てのランダム・ウォーカー (電撃文庫)
西 条陽 ,イラスト:細居美恵子 ([KADOKAWA / アスキー・メディアワークス 2018]

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