伊藤なむあひの作品は、いつも死の香りに満ちている。タイトルからわかる通り、本作もそうなのだが、あまりに死の香りが充満しすぎて、鼻がバカになってしまったような感覚すらある。
本作において、死は(まだ)生であり、さらなる死を呼び込む可能性を持つと共に、どこまで行ってもそれは死なのだ、という諦めに似た境地が開かれる。生は死によって定義付けられるといったお行儀の良い話ではなく、もっとラディカルに生死観がかき混ぜられる。
筋立て的にはロードノベルなのだが、さりとてこれを「旅」と呼ぶのがふさわしいのかはわからない。彼らはどこに辿り着こうとしているのだろうか。もちろんそれは「東京死体ランド」なわけだが、そのあまりにも象徴的で、隠喩的なメタ・パラダイスは、彼らにとっての解放点にあたるのか、それとも言葉通りの墓場となるのか。
著者の作品は、皮肉めいた視点もありながら、常に幻想的な美しさをもち、それが清々しさすら感じさせてしまう。ある種の取り繕いがまったくないのだ。
なにはともあれ、どこに連れて行かれるかはまったくわからないが、とんでもない場所に連れて行ってくれることだけは確信できる、そういう作家である。
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