SF作品で、「ヤキトリ」というタイトル。なかなかインパクトがある。『幼女戦記』の著者が送る新シリーズともなれば、不思議なタイトルとも相まって、期待感はぐんぐんと高まっていく。
さて、このタイトルだが、なんのことはない。ヤキトリはチキンであり、骨なしなのだが、やつらは違う。そういう話だ。読んで頂ければ納得できるだろう。
ストーリーテリングは、多少の前後はあるものの、基本的に一本のラインで進んでいく。わかりやすいといって良いだろう。そこに一つのトリックがあるわけだが、ネタバレになるので触れるのは止めておこう。
全体的に主人公の愚痴が多く、うだうだとした心理描写が続くのだが、これは一巻ではほとんど必然であろう。状況が変わっていくとき、彼の愚痴がどのように変化していくのかも楽しみである。また、所々に仕掛けられた言葉遊び的な面白さは、主人公のぐちぐちした感じとは対比的にたいへんクールだ。この辺の温度差も本作の特徴と言えるだろう。
が、会話やプロットとは別に、本作は独特の存在感を持っている。一種、伊藤計劃的な厭世感が、現代日本の状況に比喩的に重ねられる。押しつけられた知識、限定的な状況にのみ最適化されたノウハウ、上司に意見するほどの反骨精神の漂白。それらがもたらす、危機的状況への対応能力のなさ。ばかばかしいと主人公はあざ笑うだろう。では、読者にはそれができるだろうか。
自分ははたして骨なしのヤキトリなのか、それとも骨入りのチキンなのか。そんなことをついつい考えてしまう。少なくとも、商連人でないことはたしかだろう。
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