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『アレント入門』(中山元)

ハンナ・アレントの思想をざっと捉まえる一冊。

第45代アメリカ大統領ドナルド・トランプの目に余る施策の数々によって、アレントの『全体主義の起源』に注目が集まっているらしい。正しい危機感の持ち方であるように思う。

ユダヤ人を迫害・追放することで国内をまとめあげ、恐怖政治によって市民を分断し、孤立へと追いやり、最終的に大衆を一つの方向に向かわせることで議会制民主主義の根幹を破壊する。実際にどれだけのことをなすのかはまったく見えないが、手法としては非常に近しい。足音は聞こえている。

本書より印象的な文章を引いておこう。

このように全体主義はテロルによって、すでに孤立しやすい大衆社会のうちに生きていた人々を絶対的に孤立させ、全体主義の犯罪に荷担させる。孤立した人々は、疑似科学的なイデオロギーのために、自分で考える力を奪われてしまい、疑似科学的な論理的な推論の力で、全体主義体制を擁護し、その命令にしたがって犯罪を犯すようになる。イデオロギーはそのような行為は犯罪であり、悪であるという内心の心も、そのような行為に荷担したくないというまっとうな感情も押しつぶしてしまうのである。

そうしたことが、この地球上の歴史の中で、少なくとも一度は発生した(そして気がつかないところでもっと発生している)ことだけは念頭に置いておきたい。

もう一点、進歩し続けるテクノロジーの領域において、特にインターネット・オートメーション・AI・福祉厚生の領域において、私たちは「人間の条件」と公共性というものについてもう一度目を向ける必要があるだろう。そのまなざしは、おそらくアレント(アーレント)が生涯持ち続けていたものと重なるに違いない。

現代という時代だからこそ、彼女の思想が強く必要とされている。本書はその香りに触れるような本だ。きっと彼女自身の著作にも誘われるだろう。

▼目次データ:

序章 インタビュー「何が残った?母語が残った」とアレント
第1章 国民のヒトラー幻想―『全体主義の起源』を読む
第2章 公的な領域の意味と市民―『人間の条件』を読む
第3章 悪の凡庸さ―『イェルサレムのアイヒマン』を読む

アレント入門 (ちくま新書)
中山元 [筑摩書房 2017]

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