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『白昼のペンタクル』(山田佳江)

ボーイミーツガール。そしてSF。入れ替わる世界と、交わる世界。少し『君の名は。』を思わせるが、その実は全然違う話である。

とにかく普通に面白い。普通に面白いというのは、「セルフパブリッシングのわりには面白い」とか「前衛的な部分が楽しめる」といったことではなく、ごくごく単純に物語にすっと入り込め、そのままページを繰る手が止まらず、読んでいないときは続きが気になって仕方がない、という意味で面白いということだ。

ひとりの少年が、失われてしまった女の子を取り戻そうとする構図としてはよくある話なのだが、途中からくいっとSF感が上昇し、アクロバティックに回転しながら、何事もなかったように無事着地を決める。見事だ。

個人的に興味を引かれたのが、見守るものと世界との対話である(アクロバティックなところだ)。そこは、もはやセカイ系ですらなく、世界そのものが舞台に上がっている。一つの人格として、あるいはそれを依り代として。

世界が、多様な可能性を束ねた一つの人格とて立ち現れうるならば、私たちもまた、その背後に多様な可能性を見てとることができるだろう。そこでは、真の意味で何でも起こることはないにせよ、起こりえることは起こりえる、というトートロジーが真となる。

人間は、「そうであったかもしれない」世界を想像できる限られた動物である。それがすなわち虚構の持つ力であり、物語が持つ力でもある。多様な可能性に思いを馳せること。願いを、祈りを、意志の力を通して、この世界を上書きしていくこと。巫女のように世界を選びなおすことができない私たちは、物語を読み替えることで、その可能性を今あるこの世界に重ねていくしかない。

山田佳江 [無計画書房 2020]

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