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『マストドン 次世代ソーシャルメディアのすべて』

複数の著者による、マストドン読解本。わかりやすい操作説明書でもないし、技術的な解説書でもない。さまざまな視点や事例からマストドン(あるいはマストドンが一時的にブームになった流れ)を読み解こう、という本である。

まず言っておくと、第1章から第5章まではずいぶんとバラバラである。第1章では簡単なマストドンの流れと概要が語られ、第2章では実際にマストドンに嵌り込んだ著者によるユーザー視点の(それもTwitterなどとの比較を込めた)体験が語られる。そうかと思えば、第3章では日産の広報戦略がなぜかニコ生の話を中心に繰り広げられ、第4章では日本で一番人気(※)のインスタンス「Pawoo」を運営するPixivの狙いが掘り下げられる。第5章では、やや上の視点から、マストドン的なものがもたらすコミュニケーション・情報交流の未来図が描かれる。
日本のマストドンインスタンスの一覧より

一通り読んでみて、マストドンとは何なのかがわかったかと言えば、答えはノーである。それは当たり前だろう。なにせマストドンはツールであると共に、大量のインスタンス群からなるメディアでもある。この世界にブログというツールが登場したとき、その時点で「ブログとは何か」をわかっている人はいなかっただろう。なぜなら、それはまだ定まっていなかったからだ。ブログというものを語ろうと思えば、そのとき世界に存在している多数のブログを視野に収めなければいけない。マストドンも同じである。

その意味で、「マストドンとは何なのか?」を今の時点で語るのは難しい。あくまでそれがどのような流れの上で成立し、どのような技術的背景を持ち、実際にどのように使われているのかが提示できるくらいである。本書がやっているのはそういうことだ。

とは言え、現時点でのマストドンを理解したいならば、第4章がぴったりだろう。現在でも盛んに動いているインスタンスであり、マストドンの「連合」機能が持つ問題点も実際的に登場している。この章を読めば、なるほどマストドンとはこのような振る舞いをするものなのだな、ということがわかるはずである。

それはそれとして、本書を読んでいて思うのが、マストドンを単体で語ることの難しさである。第一にマストドンはアンチTwitter(あるいはFacebook)として登場している。でもって、このツールが短期間でここまで普及したのはまさしくそのTwitter(なりFacebook)が存在していたからだ、という点が話をややこしくする。どちらにせよ、マストドンだけを取り上げて何かを語ることは空と裾野を省略して富士山を描くようなものである。

第二に、マストドンはTwitterではない(≒ツイッターと同列におけるものではない)という点がある。Twitterだって一応人によっていろいろな使い方ができるにせよ、ユーザーに提供される体験は同一である。しかし、マストドンはインスタンスごとにそれが違ってくるし、その違いは今後プラグイン的なものの実装によってさらに拡大していくだろう。だから、Twitterに直接対峙させるのはマストドンではなく個別のインスタンス(たとえば、Pawooなど)なのだ。つまり、Twitterを語ることと、マストドンを語ることは基本的にレイヤーが違う話である。それが「マストドンを単体で語ることの難しさ」につながっている。

おそらく今後のマストドンは、三大勢力的に大規模かつ少数のインスタンスが生まれると共に、ものすごく小さいインスタンスが大量かつ断片的に散らばる、という二極化に向かって進むだろう。そして、それぞれのユーザー体験はまったく異なるはずである。同じ「マストドンってね〜」と言っていても、大規模インスタンスに所属している人と、ニッチなインスタンスに所属している人では、違うものを指すことになるのだ。でもって、そうした分断こそが、分散型SNSがもたらすものでもある(その点については、今後≪ロングテールとリトル・ピープル≫でも書いていく)。

そうした分断の弱点を補うために、マストドンには「連合」という機能も備わっているが、結局それが機能である以上、どう使われるのかもまたインスタンス次第であり、統一的な何かが生まれる保証はどこにもない。それは一体何をもたらすのだろうか。

そこで、本書の構成にもう一度目を向ける。本書は第1章から第5章までがバラバラに語られているが、第6章ではそれらの著者が集まって座談会を行っている。そこで視点の違いが明らかになると共に、共通点といったものも見つかる。実に面白い。そして、まさにこれが統一的なもの(分断的でないもの)がもたらすものだろう。つまり「連合」である。

その意味で、本書は構成的にもマストドン的だな、という印象を受けた。

▼目次データ:

第1章 マストドンブームがやってきた
第2章 マストドンによって蘇る体験
第3章 日産がマストドンを利用する理由
第4章 マストドンはPixivの何を変えるのか?
第5章 マストドンが示す分散型SNSの可能性
第6章 マストドン座談会〜マストドンの未来を考える

マストドン 次世代ソーシャルメディアのすべて (マイナビ新書)
堀 正岳、まつもと あつし、いしたに まさき、コグレ マサト、小林 啓倫 [マイナビ出版 2017]

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