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『クリエイティブ・スイッチ』(アレン・ガネット)

副題が「企画力を解き放つ天才の習慣」となっているように、キーポイントは「企画力」と「習慣」である。

本書はまず、クリエイティブとは何かという問題に取り組む。哲学的には非常に示唆に富む問題ではあるが、「企画力」というレイヤーでそれを眺めれば、案外決着点は早く見つかる。他者から「あの人はクリエイティブだ」と評されるようなヒット作をたくさん生み出す力、である。

ものすごく斬新なものを生み出すことができたとしても、それが他者からの評価を得られなければ、その力をクリエイティブだと評するのは難しい。誰もいない森の中では、木の倒れる音はしない。

よって本書では、評価される(なんならヒットする)企画を生み出せる力をクリエイティブ(クリエティビティ)だと定義する。その上で、その力がどうすれば身に付くのか、という習慣に迫っていく。

当然のように、ここではそうした力は天賦の才ではなく、身につけられるスキルだとして扱われている。でなければ、どのような習慣を行っても意味は無いだろう。その意味で、名著『アイデアのつくり方』と通じる部分は多い。ただし、『アイデアのつくり方』では、著者のヤングは人間を二つのタイプに見立てていて、その片方に対する助言という風に本を書き下ろしている。訓練によって身につくが、「誰にでもできる」という風には請け負っていない。むしろ、ヤングは徹底的に原理について考察しただけである。その辺のスタンスは本書とは異なる。

ともあれ、似ている部分は多いし、本書の方が掘り下げている部分もある。たとえば、インプットの重要性は両書で共通している。ともかく頭の中に放り込まない限り、アイデアの調理は進まない。これは至って自明な話である。ただし、なぜそうなのかの説明は異なる。

本書では、馴染みのあるもの(流暢性が高いもの)がヒットには欠かせないから、というスタンスを取るのだが、これはまさにその通りだろう。斬新すぎるものを人は受け入れないし、人に受け入れられないものがヒットすることはない。

ただし、あまりに馴染み深いと、これはこれでヒットにはならない。飽きが発生してしまう。そこで、「馴染みがあるけれども、どこか目新しいもの」(あるいは目新しいけれども、どこか馴染みがあるもの)というスイートスポットが湧き上がってくる。これが本書が言う「創造曲線」である。

その詳細は本書に譲るとして、本書がさらに踏み込んでいるのが、クリエイティブを個人芸と見ていない、点である。本書ではいくつかのチーム(≒人間関係)が有効だと説くが、おそらくそれは、『POWERS OF TWO 二人で一人の天才』で語られる話と通底しているだろう。もっと言えば、『知ってるつもり――無知の科学』とも視点が近い。知の働きは、個で捉えるよりもつながりで捉えた方がいい。

このように、本書は習慣の話をしながらも、個人の発想力を上げるといった『「クリエイティブ」の処方箋』『アイデアのヒント』のようなノウハウ重視の本とはやや距離をおいた内容になっている。むしろスタイルで言えば、『ヒットの設計図』のような、いかにしてヒット作はヒット作になりえるのか、という視点の方が近い。

ともかく、必要なのは次の三つだ。対象領域に関するひたすらのインプット、小さいアウトプットとその改修、そしてチーム(他者との協働)。この先にヒットは待っている。もちろん、ヒットを待っていないならこの道を進む必要はない。

クリエイティブ・スイッチ 企画力を解き放つ天才の習慣 (早川書房)
アレン・ガネット 翻訳:千葉敏生 ([早川書房 2018]

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