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自分に脈打つキーワード

心理学と心理術 – 佐々木正悟ブログメモ

交渉術とか、記憶術とか、心を鍛える技術とか、人前で緊張しない技術とか、異性となめらかにトークする会話術とか。

全部ではないけれど、私もぜひ知りたい。

というわけで本屋に行ってみたりすると、それがない。本はあんなにあるのに、読み切れないくらいあるのに、めぼしいほんとなると決まって全然ない。

ある種の本がたくさんあるとする。

市場原理を持ち出す。価格シグナルによる需要と供給のバランス。ある種の本がたくさんあるということは、それを知りたいと思う人が多い(あるいは多いと想定される)ということだ。そして、そうした本が売れていれば、そうした情報を知っている人が多いことを意味する。

つまり、そういう情報はありふれている。溢れていて、ありふれている。知識の偏りはあるにせよ、つまりまだ知らない人はいるにせよ、そういう情報は知っている人が多い。

だから、読みたい本は無い。

多くの人が知りたいと思う情報は、知っている人が増え、情報の価値が減り、ネットなどで無料で放出される。だから、それはすでに私は知っている。知りたいとは思わない。言い換えれば、知りたいと思っている時点で、その情報がニッチなことを意味する。

というのは、まあ、あくまで極論だ。非常に極端な考え方を小刀で尖らせたものにすぎない。でも、一つの考え方ではある。


「検索キーワード」問題がある。

Googleは、検索したキーワードにリレーションがある記事を返してくれる。便利な大先生だ。しかし、キーワードを知っていないと、その情報を探すことはできない。存在を知りようもない対象については、Googleでは探しようもないのだ。

だから、そう、「私もぜひ知りたい」という気持ちが大切なのだ。

つまりどういうことだろうか。

書店に赴き、膨大に並ぶ本たちを眺めながら、「私が読みたい本がない」と思う気持ちが大切なのだ。そこには、その人自身のキーワードが脈打っている。

いくつかのガジェット、あるいはアプリケーションの開発者談を読んでいると、「私が作りたいものを作った」という話をよく見かける。その人は、杜撰なアンケートによるマーケティングではなく、自分自身の「ニーズ」に基づいた開発を行った。

それが必ずうまくいくわけではないにせよ、少なくともそこに一つの「ニーズ」は確認できる。アンケートによるマーケティングは、幻想のニーズしか確認できないことと比べると、これは大いなる飛躍である。


「私が知りたい」「私が読みたい」というのは、1というサイズのニーズである。対して、マーケティングによる市場規模の計算は、1000とか5000とかそういうサイズのニーズとなる。

1のニーズからのスタートは、結果として1で終わることもある。が、100や500へと広がる可能性もある。人は、一人ひとり違ってはいるが、似ている部分もあるからだ。

私は、次のようなイメージを持っている。

大きな白紙のキャンバスを思い描こう。そこに、大手出版社は大きな円を描いていく。できるだけ重ならないように、そのキャンバスを埋めていくだろう。ときに想像以上に大きな円になることもあるだろうし、意外なくらいに小さな円で留まってしまうこともあるかもしれない。ともかく、大きな円を描いていく。

が、どうしても小さな隙間は残ってしまう。

セルフパブリッシングは、そこに点を打つ。その点は、やがて成長し小さな円くらいにはなるかもしれない。予想外に広まって、中ぐらいの円になるかもしれない。ともあれ、「私が読みたい」出版というのは、そういうものだ。

つまり商業出版を補佐するものとして、「本」の文化をより豊かにするものとして、セルフパブリッシングは位置づけられる。


ただし、「私が読みたい」と思うものは、きっといくつもある。私の企画案のストックはもう100以上になっている。

だから「私が読みたい」→「だから自分が」とはすぐにはならないし、できない。

抱えている「私が読みたい」の中でも、自分がコミットできるもの、少しは知識があるもの、得意なもの、どうしても放置しておけないもの、そういうものを選択することになるだろう。これは『ブログを10年続けて、僕が考えたこと』で書いた「ついつい当事者意識を持ってしまうものをブログのテーマにする」ということに非常に似ている。

ブログを10年続けて、僕が考えたこと
倉下忠憲 [倉下忠憲 2015]

もちろん、売れそうなもの、を選択することもできる。その場合は、うまくやれば生業にもできるだろう。でも、必ずしもそれを選択しなければならないわけでもない。関わり方は多様である。

これを書きながら、今後は「半ビジネス」(反ではない)的なコミットメントのスタイルが増えていくのではないか、と感じた。あるいは1/3とかでもいい。そういうのを複数重ねあわせたコミットが、『僕らの生存戦略』へとつながっていくのだろう。

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