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自己批判と「できることをする」

自己コントロールには、自己批判が必要に思える。克己心という言葉もある。自己を批判できないで、どうして自己をコントロールできようか。

さて、実際はどうだろうか。

ケリー・マクゴニガルの『スタンフォードの自分を変える教室』にこんな実験が紹介されている。

スタンフォードの自分を変える教室
ケリー・マクゴニガル [大和書房 2012]

この実験では、学生たちが勉強を先延ばしにする様子を学期の最初から終わりまで記録した。最初の試験では、多くの学生が直前まで試験勉強を始めなかった。誰しも思い当たるはずだ。が、すべての学生にそれが「習慣」として根付いたわけではなかった。試験後のある行動で、学生に違いが見られたのだという。

最初の試験で直線まで勉強しなかったことを自分で責めた学生たちは、次の試験ではさらにのんびりすることになった。逆に、自分を許した学生は、時間は着々と準備するようになった。

一体どういうことだろうか。まるで鏡の世界を見ているようだ。私たちの先入観の鏡の世界だ。

マクゴニガルは次のように書いている。

驚いたことに、罪悪感を抱くよりも自分を許すほうが責任感が増すのです。研究者たちの発表によれば、失敗したことについて、自分に思いやりをもってふり返った場合のほうが、自分を厳しく批判した場合よりも、失敗したのは自分のせいだったのだ、と認めやすくなりますまた、そのほうが他人の意見やアドバイスに対しても進んで耳を貸せるようになり、失敗の経験から学ぶことも多くなるのです。

なんともややこしい心理ではないか。が、自分の周りを見渡してみると、納得できることは多い。たしかに自己批判の強い人は、あまり行動が改善されない。

少し考えてみよう。

自分を厳しく批判したとする。「これは私が悪いんだ」__ここには能力不足や資質不足などが理由として含まれるだろう。もし、その理由が「タイミングが悪かった」というようなものなら、それは自己批判ではない。むしろ自分を許す方向に近いだろう。

では、「これは自分が悪いんだ」という自己批判は何を引き起こすのか。「自分=劣っている」という認識であろう。なにせ、自分が悪くて失敗したのだ。ここにトラップがある。自分を叱責すればするほど、自分の中のセルフイメージが「弱い自分」「できない自分」として固まっていく。つまり、自己暗示や、あるいは自分に向けたピグマリオン効果である。

このあたりの話は、マーティン・セリグマンのポジティブ心理学と通じるだろう。

オプティミストはなぜ成功するか [新装版] (フェニックスシリーズ)
マーティン・セリグマン [パンローリング 2013]

自己批判して、自分が悪いとなれば、悪い自分のイメージが固定してしまう。その上、「できなくても仕方がない。だって自分は劣っているのだから」という目に見えない言い訳としても機能してしまう。

では、そうした自分を許せばどうだろうか。これは言い換えれば「自分はできるはずだ」という可能性を留保することとイコールだ。今回はうまくいかなかったけど、何かを改善すれば、きっと違った結果が返ってくるに違いない、と思える余地を残すことなのだ。

自己批判は自分を攻撃し、反省し、改善の計画すら立てるかもしれないが、心の底には「できない自分」のイメージが住み着いている。で、行動はそれに引っ張られる。その上、できなくてもしかがない、というお墨付きすら生む。「責任感」という指標でみれば、これはたしかに薄いと取られても仕方がない。

そうした攻撃を回避して、状況を確認するようにすれば、「自分が何かできる余地」が見つかるようになる。そして、それをするかどうかは自分の選択として残っている。状況を良くできる可能性を手中に収めているのだ。できなくても仕方がない、できなくて当然という姿勢とは違っている。

結果に対して自分が影響を与えられるのだから、「どうであれ、できることをしよう」という考えが発生しやすくはなるだろう。この点が、とても大切である。

たとえ影響は小さくても自分に変えられること、自分が実行できることがあるならば、やってみることが肝要だ。自己批判して足を止めてしまえば、それができなくなる。

だからそう、自分を過剰に批判するのはやめよう。その先に待っているのは、カチカチに固まった(そして現実とは似ても似つかない)「できない自分」のイメージである。そのイメージは、自分を引っ張ってしまう。足を止めさせてしまう。

自分を攻撃しない(自分が悪いのだと責めない)、というのは甘えのように感じるのだが、そこから次なる行動を促すという点では、また別の厳しさがある。

もちろんどちらを選ぶのかを強制はできないが、少なくともそういう選択肢もある、ということは頭に置いておきたい。

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