創刊にあたって

倉下忠憲

とても好きな言葉があります。シンプルな言葉です。

「無いのなら、自分で作る」

DIY(Do It Yourself)の精神をあらわすこの言葉は、短いながらもいくつかのニュアンスを含んでいます。

  • 自分でできることは自分でやってしまう考え方
  • 自分の頭と体を動かして生産に参加する姿勢
  • 物事を人任せや他人事にしない態度
  • 自主性や自主的な活動を重んじる価値観

このような精神から何かを生み出すことは、単に安価に済ませられるメリットを持つだけではありません。既製品では対応しきれないニーズに細かくアジャストもできますし、さらにそうして何かを作り出す行為自体からも、充実感や達成感が得られます。マスプロと分業が進む現代ではなかなか得がたい経験です。

元々DIYという言葉は、第二次世界大戦の空襲被害を受けたロンドンの街を、市民らが自らの手で復興させる運動のスローガンとして使われ始めたそうです。そこでは選択の余地などなく、「やむにやまれる」や「そうせざるをえない」状況しかなかったのでしょう。なにせ、誰に頼ることもできません。待っていれば恵みの雨は降ってくるかもしれませんが、それで自分の住む家や職場が自動的に復元されるわけでもないのです。

ともかく自分の手を動かして、自分で作るしかありません。

このDIYという言葉からは、悲惨な状況を直視する痛みと共に、そうした状況からでも希望を立ち上げようとする力強さが感じられます。

もう一つ、別の言葉もあります。といってもこちらは私が「見つけた」言葉です。

「読みたい本が見当たらないなら、あなたが書く番なのかもしれない」

本をたくさん読んでいくうちに、どこか物足りなさを感じ始める。言うべきことが言われていない感覚がしてくる。そういう感覚を覚え始めたとき、人は著者となる道を歩み始めるのでしょう。

この二つの言葉を重ねあわせると、新しい言葉が生まれます。

PIY(Publish It Yourself)──「読みたい本は、自分が出版する」

このコンセプトから、当雑誌は始まりました。

私は常々「知的生産」や「知的生産の技術」について書かれた文章を読みたいと強く望んでいます。しかし、それにぴったりフィットする雑誌は見当たりません。文房具を扱う雑誌はあります。ビジネスノウハウを扱う雑誌もあります。しかし、知的生産の技術にフォーカスし、適切な具体性と抽象性を兼ね備えた雑誌はありません。すでに存在している雑誌は、どれも微妙に物足りないのです。

だったら、自分で作るしかありません。市場では相手にされないかもしれない、知的生産の技術を扱う雑誌を自分たちの手で作るのです。それこそ、ロンドンの街を復興するみたいにです。

幸い技術の進歩により、低コストで電子雑誌を作れるようになっています。強い決意も、高い借金も必要ありません。同じような趣味・嗜好を持つ人たちに声を掛ければ、自分たちで手がけられる土台はできています。なんなら「ちょっとやってみようか」ぐらいの心持ちでスタートできるのです。損益分岐点をさほど気にすることなく、自分の趣味に合致した雑誌を作り出せるのです。

しかしそれは、単なる自己満足とも違います。他者へ向けて波及する自己満足とでも言えばよいのでしょうか。自分を徹底的に掘り下げていくと、どこか別の場所にいる他人とつながりはじめる。そういうことはあるように思います。

よってこの雑誌は「私たちの雑誌」です。私と趣味・嗜好を近しくする人のための雑誌──という意味もありますが、それだけではありません。

本雑誌の執筆者の皆さんは、私がWebで「見つけた」人たちです。面白い文章を書いているのに、さほど知られていない人。そういう人たちをリストアップし、ピックアップして原稿を書いてもらっています。そして、その意味では、この雑誌を読んでいただいている皆さんも、潜在的には書き手でありうるのです。言い換えれば、いつでもこの雑誌の書き手になり得る可能性を秘めています。

もちろん、「誰でも良い」わけではありません。最低限、日本語で文章を書く力は必要ですし、金太郎飴なコンテンツを嫌う価値観も必要です。しかし、文章を丹念に紡いでいけるだけの思考力と忍耐力さえあれば、それだけでスタートラインには立てます。資格も試験も必要ありません。編集長のことを嫌悪していたって大丈夫です。この雑誌の門戸は、読者さんに向けていつでも開かれています。

そもそも、「知的生産の技術」を話題とする雑誌なのですから、書き手ばかりが知的生産を行い、読み手はただそれを消費しているだけ、などというのは滑稽な姿でしょう。これまでの境界線を壊すような、言い換えればトランスボーダーな存在であるのが望ましいはずです。

難しすぎず、簡単すぎず。
身近すぎず、高尚すぎず。
読み物として面白く、
それでいて、ノウハウとして役立つものが含まれている、そんな雑誌を。

面白いコンテンツと、読者を引き合わせるような。
面白い書き手と、それを面白がれる読者を引き合わせるような。
そして、読者が書き手として参画できるような、そんな場として機能する雑誌を。

目指して進んでいきたいと、考えています。

創刊編集長 倉下忠憲(くらした・ただのり)